新年明けましておめでとうございます。今年もフォトグラファーとして、いち個人として、多様な視点を意識しながら、この連載で「試行錯誤している私」を公開していこうと思いますので、引き続きお付き合いください。私の試行錯誤が、皆様のお役に立てたら恐悦至極にございます(笑)。

撮られることに“うぶ”な日本のビジネスマン

私が、20年住んだNew Yorkから東京ベースに切り替えてすぐのころ。いまから10年くらい前の話ですが、日本でとある外資コンサルティング会社のエグゼクティブを撮影しました。その時、彼があまりにも撮影慣れしていないことに、驚いたことを覚えています。

アメリカでは、企業のウェブサイトにCEOやエグゼクティブ、部署責任者の写真が掲載されているのが常。皆撮られ慣れていますし、自分の見え方をとても気にしてもいました。

では、皆どのようなビジネスプロフィール写真を実際に掲載しているのでしょうか。
以下に、Apple、Citibank、Facebook、Disneyのエグゼクティブたちが並ぶページをまとめました。ぜひサイトを訪れて、彼彼女らの写真をよく見てみてください。

こうしたアメリカの大手企業では、エクゼクティブのプロフィール写真を撮る際にスタイリストが付くのは当たり前。企業イメージに合わせてスーツやネクタイの色、スタイルも決められていたりします。さらには背景処理など、会社での統一がきちんとなされたうえでもなお、各個人の表情や服装、ポーズに人それぞれの主張、個性を感じ取れるのではないでしょうか。

プロフェッショナルのプロフィール写真においては、どんな目的で、誰に、どんな印象を与えるかが重要です。それをきちっと理解し、セルフプロデュースする。そうしたスキルを、アメリカのエグゼクティブたちは備えているわけです。

プロフィール写真は小さな広告

そこで読者の皆さんに質問です。皆さんは、仕事におけるご自身のプロフィール写真をお持ちですか? 持っているという方は、そのプロフィール写真を誰に対して、どのような自分を印象付けるために撮影しましたか?

会社のウェブサイトに掲載するため? それともプライベートのSNS用? それとも、ビジネスのSNS用? どこかで登壇されるような方なら、固めの講演会なのか、カジュアルなセミナー案内なのか、はたまた選挙ポスター用なのか…etc. 目的によって、陰影のつけ方、背景、光の種類(ストロボか自然光か)、衣装、ヘアーメイクなど、撮影内容とその仕上がりは全く違います。

プロのフォトグラファーにとっては「そんなの当たり前でしょ」という話ですが、日本のエグゼクティブで、プロフィール写真を“プロ”に依頼している方、意外と少ない印象です。セミナーのチラシなどに掲載されている写真を見て、「これ、絶対スマホで部下に撮らせたやつでしょ」と思うことも、しばしば(笑)。iPhoneがいかに進歩して、画質が向上しようとも、その出来栄えはかわりません。「目的に合わせて写真を作る」という技能は、撮影する人、つまりフォトグラファーの技量によるものだからです。

カジュアルなのか、フォーマルなのか。正面か、横向きか。親近感なのか、信頼感なのか、笑顔なのか、威厳のあるイメージなのか。誰にどんな印象与えたいのか、目的をはっきりさせ、その目的達成のために作り上げていくのが、ビジネスプロフィール写真。

手前味噌ですが、以下は私が撮影させていただいたビジネスプロフィール写真の例です。一言で「ビジネスプロフィール」といっても、これだけ仕上がりに差がある。それは皆さんの目的や見せたい個性が異なるから。その多様性を、ご理解いただけると思います。

畑中学/不動産コンサルタント
畑中学/不動産コンサルタント
本多佳美/特定非営利活動法人あおぞら理事長
本多佳美/特定非営利活動法人あおぞら理事長
杉浦二郎/株式会社モザイクワーク代表取締役
杉浦二郎/株式会社モザイクワーク代表取締役
池照佳代/アイズプラス代表取締役
池照佳代/アイズプラス代表取締役
anz kanie/Artist
anz kanie/Artist

時代と共に、ボジションごとに求められるイメージも変わっていきます。昭和の偉い人=エグゼクティブ像は、威厳があるイメージでしたけど、現在は親しみやすく話しかけやすい印象が好まれるようになっているのではないでしょうか。威厳より、親しみやすさが、2020年現在の日本に求められているエグゼクティブ像であるように感じます。

ただし、相手との関係やターゲット、国籍が変わると、求められるイメージもまた変わります。文化が違えば、エラい人のイメージも変わるわけですね。フォトグラファーとしては、そんな試行錯誤をしながらイメージを作り上げていく楽しさがあります。また、実際にそんなイメージを意識的に使い分けているビジネスエグゼクティブもいらっしゃいました。

株式会社HRファーブラの山本代表です。2016年に撮影したときは、威厳があるイメージを求めていました。2018年に再度撮影を希望されたときには、親しみやすさを求められました。2枚を並べてみると…。

山本紳也(2016年撮影)/株式会社HRファーブラ 代表取締役
山本紳也(2016年撮影)/株式会社HRファーブラ 代表取締役
山本紳也(2018年撮影)/株式会社HRファーブラ 代表取締役
山本紳也(2018年撮影)/株式会社HRファーブラ 代表取締役

かなり印象が違いますよね。山本さんは、2枚のプロフィール写真を、人材育成の仕事やコンサルティングなど、目的に合わせて使い分けているそうです。

ビジネスにおけるプロフィール写真は、あなたの“顔”であるだけでなく、あなたが扱っている商品やサービス、経営しているor勤めている企業の“顔”にもなります。言わずもがなですが、個人で活動されている方のプロフィール写真は、その人に仕事を頼むか否か、相談するかしないかに大きな影響を与える宣伝素材。

そう、プロフィール写真は小さな広告なのです。

しかし日本では、免許証の写真やパスポート写真と同等のものと思われているように感じられて仕方ありません。

SNSの写真を変えたらフォロワー3倍?

インスタグラムやフェイスブックといった「写真」の良しあしがモノをいうSNSが、日本においてもすっかり大きな影響力を持つようになりました。そうした状況もあって、日本でもビジネスプロフィール写真の重要さがさらに増しているように思いますし、同時に、その有用性を理解している方も増えてきていると感じます。

以前、不動産コンサルタントの方からのご依頼で、ウェブサイト掲載用のプロフィール写真を撮影したことがあります。翌年、その方にお会いした時、こうおっしゃっていただきました。

「ホームページの写真を、真顔から笑顔に(自然光で撮影した柔らかい笑顔)変えただけで相談者が増えて、とても儲かりました(笑)」

用途・目的を定めて撮影することが如何に重要か。それを意識しただけでビジネスプロフィールの写真はきちんと効果を発揮してくれる。改めてそう思った出来事でした。

また昨年、こんな話がツイッター上で話題になりました。

サイボウズ社の副社長、山田 理(やまだ・おさむ)さんが、ツイッターのプロフィール写真を、マーケティング部の新人社員に「ダサい」と言われてしまい(笑)、写真をプロデュースしてもらうという話。すると、なんとフォロワーが3倍、さらには会社の株価も上がってしまうという驚きの展開に。

「株価が上がる」までくると、さすがに写真を変えただけでという話ではないでしょうが(笑)、新人社員さんとのやり取りも公開されるなど、SNSの使い方含めて、好事例といえるでしょう。写真もSNSでの“態度”も、あなたとあなたが所属する組織における大事な“顔”なのです。

あなたの印象を写真に写し込む

皆さんは、人と会った時、相手の顔をどのくらい見ていますか? 顔をまじまじと見つめあうなんて、付き合いたての恋人同士くらいではないでしょうか(笑)。

人は、ざっくりとしたイメージで、相手を捉えて(見て)います。つまり、見た目だけでなく、仕草やしゃべり方も含めた“印象”で、人を見ているのです。

一方で、プロフィール写真は違います。顔をまじまじと見られてしまうのです。ですから、そこには自分が見せたい「自分のイメージ」を、きちんと意識的に、戦略的に加える必要があります。表情なのか、ポーズなのか、背景ないのか、髪型なのか、ライティングなのか。工夫を重ねて、「自分のイメージ」をプロフィール写真に作り込まなければなりません。

そうして出来上がったプロフィール写真を、事前に見せておくことは、実際会った時の第一印象に、強い影響を与える。これは間違いありません。

ですから、ホクロやシワを気にするよりも、あなたの“印象”を大切にしてください。「どんな自分が、相手に見せるべき自分なのかわからない」という方は、自分の魅力を、あなたをよく知る第三者から、是非聞いてみましょう。そこにはあなたが思っているあなたと違うあなたがいるかも知れません。

あなたの、“嘘のないベストな印象”を届ける。それが、私の考えるプロフィール写真です。もしそんな写真を撮りたいと思ったら、「たかはしじゅんいち」のことを思い出してください(笑)。

[撮影]
photo by Junichi Takahashi

たかはしじゅんいち
写真家・立木義浩氏に師事。1989年よりニューヨークと東京を拠点に、広告・音楽・ファッション・アートの分野で活動。STOMPのオフィシャルフォトグラファーを10年以上担当し、2009年にはNews Week の「世界で尊敬される日本人100人」に選ばれる。現在は、アスリート、職人、日本酒作り、伝統芸能、芸術家が大好物な被写体。地域町おこし、障害、高齢者福祉などにも興味を持ち、フォトグラファーとしての関わり方を模索している。