強さ、美しさをどう捉えるか――魅力的なアスリートという被写体

たかはしじゅんいちのカメラ試行錯誤

フォトグラファーのたかはしじゅんいちです。来年はいよいよ東京オリンピック。大会期間中は、アスリートの竸技を間近で見られるチャンスが目白押しなので、いまから楽しみです。

私は、以前から意識的にアスリートを被写体に選んできました。

様々なトレーニングで心と身体を極限まで鍛え上げた容姿はため息が出るほど美しい。そして眼光には自信や誇りを感じます。身体を動かす度に躍動する筋肉、引き締まった身体の線……これが良い被写体でないはずありません。

今回はプロBMX (自転車競技)ライダー、飯端 美樹(いいばた みき)さんを撮影した時のお話をしたいと思います。

美しい容姿と鍛え上げられた筋肉――その魅力をどう引き出すか

飯端さんの撮影では、女性アスリートの強く美しい女性像を表現したいと思っていました。

光は影を作るためにあります。陰影の中から被写体が浮かび上がるようライティングした時に、緊張感やその力強さが現れ、私はその美しさに魅かれます。そうして光と影をコントロールすることで、平面イメージの中に立体的で力強い肉体を捉えることができるのです。

アスリートという強く美しい被写体を捉えるには、柔らかく光を回したのでは、明らかに弱いと感じられます。被写体の大切なエッセンスを捕まえられません。

BMXプロライダーである飯端さんの競技に必要な筋肉は臀筋と背筋、つまりお尻と背中です。その筋肉に合わせて、緊張感のあるライティングを作り上げていきました。

自由に動けないほど“攻めた”ライティング

光のコントロールには、硬さ/強さ/角度という3つの要素が重要です。まずはディフーザーを通さない傘バンの光を、45度の逆光で両サイドに置いてみました。

すると、向かって右奥の光が硬過ぎ、日焼けした美しい肌(顔、腕)をギラつかせたため、キミーラのボックスライトに変更。2枚のディフーザーを通した柔らかい光で、顔~腕までを柔らかいグラデーションで捉えます。

向かって左奥、傘バンによる硬めの光は、美しくしなやかな筋肉をあぶり出すよう、身体へ沿わせました。筋肉の隆起に合わせてハイライトが出来ます。

光が硬過ぎるのも良くありません。コントラストが強過ぎて、ハイライトが飛んでしまいます。デジタル技術が進化しても、ハイライトからシャドーまでのグラデーションを全てデータに出来る訳ではないので、繊細な調整が必要です。

「背中の筋肉、美しく締まった臀部を見せたい。しかし美しい表情も……」と考えて、ポージングは身体を捻ってもらうことにしました。そして飯端さんには、「5cmずれると、身体の凹凸を捉えられません」と伝え、ギリギリのセッティング、環境の中でカメラと対峙してもらったのです。

すると、そのライティングに負けないような強い表情が現れました。まるでレースに出る前の真剣で美しい表情と重なり、カメラを射抜いた瞬間にシャッターを連写。モデルではない本物のアスリートが持つ美しさに魅了された瞬間です。

そのまま竸技ウェアでのポートレイトへ

ポートレイトは、身体全体を撮影したライティングを元にした、バリエーションといえるセッティングです。右奥に置いたBOXライトを彼女の顔、向かって左側に出来る影を見ながら、手前にゆっくり動かして行きます。

向かって左の目に光が入り始めたところでBOXライトの位置を固定。より強い印象になるよう、反対側を黒のボードでおさえ、影を強調しました。

大切なのはもちろん、機材でもライティングでもありません。被写体をどう撮影するのか。被写体のどこを表現するかです。

今回は彼女の強さ、美しさを表現するひとつの方法として、ライティングを駆使しました。女性の「柔らかさ」や「可愛いらしさ」ではなく、アスリートの持つ強さ、自信、美しさをこれからも探りながら、撮り方の試行錯誤を続けるつもりです。

そしてそのイメージを見てくれた方が、被写体であるアスリート自体のファンになったり、競技に興味を持ってもらえるような、そんな写真を撮っていけたらなと思います。

[機材DATA]
カメラPentax 645Z,
SMC 55mm F2.8AL
1/125s, F11

[モデル]
飯端 美樹(いいばた みき)1985年10月5日生まれ。日本のプロBMX (自転車競技)ライダー。大阪府和泉市出身。SE BIKES所属、マネジメント事務所はサンミュージックプロダクション。

父の影響で、10歳の時BMXに出会い、1ヶ月後に初出場したレースで優勝、その後全日本選手権など国内レースで数々の優勝を飾る。 15歳で、世界選手権に日本代表として初参戦。 海外の有力選手から強い刺激を受け、翌年、BMX本場アメリカへ渡ることを決意。 アメリカでの厳しい環境の中、トレーニングを積み、worldchampionship 3位という成績を収める。 その後は、日本で資金を貯めてはアメリカへ渡る生活を続けながら、プロレースへの参戦を続けていた。 日本国内では16歳の時点で最年長となり、女子のプロライダーとしての位置が確立してない日本で、 唯一、多数の企業にスポンサードされ、プロとして活動できる環境を作った第一人者。日本を代表するトップライダーとして活躍している。

[飯端さんからのコメント]
東京オリンピックに向けてもっとBMXを広める立場として活躍していけたらと思っています。

[ヘアーメイク]
長井かおり

たかはしじゅんいち
写真家・立木義浩氏に師事。1989年よりニューヨークと東京を拠点に、広告・音楽・ファッション・アートの分野で活動。STOMPのオフィシャルフォトグラファーを10年以上担当し、2009年にはNews Week の「世界で尊敬される日本人100人」に選ばれる。現在は、アスリート、職人、日本酒作り、伝統芸能、芸術家が大好物な被写体。地域町おこし、障害、高齢者福祉などにも興味を持ち、フォトグラファーとしての関わり方を模索している。