シドニー—ロンドンを経由なしで結ぶ──長年“航空業界の白鯨”と呼ばれた超長距離ルートが、ついに現実味を帯びてきた。Qantasが推進する「Project Sunrise」の中核となるAirbus A350-1000ULRが主要組立工程を完了し、2026年末の引き渡し、そして2027年初頭の商業運航に向けて着実に進んでいるからだ。

本機は通常のA350-1000とは根本的に異なる。Airbusが特別に設計した追加2万リットルの後部センターフューエルタンクによって航続時間は最大22時間に達し、これまで不可避だったシンガポール、ドーハ、ロサンゼルスなどでの経由を一気にスキップする。
さらに目を引くのは、座席数を一般的なA350(約350席)からわずか238席に削った密度の低さである。経済効率よりも“人間の耐久性”を最適化する設計思想が貫かれ、機内中央にはストレッチ・水分補給・簡易エクササイズができる「Wellbeing Zone」を新設。大学研究機関(シドニー大チャールズ・パーキンス・センター)と連携し、照明色、食事のタイミング、睡眠リズムに影響する要因まで細かくチューニングされている点も特徴だ。
デザインは豪デザイナー David Caon が監修し、落ち着きと未来感を兼ね備えた空間を実現。食事も含め、生体リズムを乱さない機内体験を最適化することで「22時間を耐える」から「22時間を使いこなす」へ──移動そのものの価値転換を狙う。

Qantasは本機を12機導入予定で、超長距離直行便を“次のプレミアム領域”と位置付ける。乗り継ぎ時間を最大4時間短縮できるため、高頻度で移動するビジネス層にとって強力な選択肢となり、中東経由のルートに対する競争構造を変える可能性さえある。
一方で、運航乗務員の勤務規制、機体メンテナンス、燃料システムの追加認証など課題も多い。しかし、航空史における“距離の壁”を打ち破る試みとして、Project Sunriseが業界構造を揺さぶることは間違いない。






















