皆さんこんにちは。河上 純二 a.k.a JJです。
世界を変えるスタートアップ企業にフォーカスした最新レポートをお届けします。
第55回目は、6月に開催されたIVS 2025ローンチパッドに出場し見事優勝に輝いた、Advance Composite株式会社のAKIYOSHIさんにお話を伺いました。
「素材の力で世界を変える」─そんな言葉が決して誇張ではないと感じさせるスタートアップが、突如としてスタートアップイベントの頂点に立った。IVS 2025 in Kyotoで開催されたピッチコンテスト「ローンチパッド」で優勝を果たしたのは、静岡県富士市に本社を構えるAdvance Composite株式会社(アドバンス コンポジット)。その登壇者は、創業者でもCEOでもなく、秘書の“AKIYOSHI”氏だった。
しかし、彼のプレゼンは異彩を放ち、誰よりも聴衆と審査員の心を掴んだ。
■ 規格外の登壇、そして圧倒的な技術力
AKIYOSHI氏は、「会社に黙ってエントリーし、有休を取って京都まで出場して、1人で優勝して帰ってきました。」という前代未聞のエピソードでIVSを沸かせた。秘書という肩書きながらも、実質的にはCEO直属の“何でも屋”として、事業全体に関わっている。
ピッチでは、スタートアップ業界の典型的なフォーマットにとらわれず、いきなり製品サンプルを持ち込むインパクト重視のプレゼンスタイルを披露。15人中のトップバッターであることを予測し、冒頭で強烈な印象を残すことに成功した。
■ 他にない“複合材料”を生み出す日本発の素材テック
アドバンスコンポジットが展開するのは、高圧鋳造を応用した独自の複合素材製造技術だ。従来の「素材Aと素材Bを混ぜる」という方法では、均質化や素材の割合の限界があった。対して同社は、素材Aを多孔質構造に加工し、その極小の隙間に素材Bを高圧で押し込む「溶湯鍛造」技術を確立。異なる素材同士を一体化し、新たな物性を持つ“第3の素材”を生み出している。
この技術は、熱伝導率が高く、膨張率が低いといった、ハイエンドな特性を実現可能。たとえば、EVやハイブリッド車の部品、半導体製造装置、空調機器などの高負荷パーツに使われている。すでに国内大手メーカーの多くが同社製品を採用しており、F1チームや大手半導体メーカーとの関係もすでにあるという。
■ 特許取得の高性能素材──「絶縁×高熱伝導」のミドルレンジ基板
特に注目すべきは、同社が開発・特許取得した高熱伝導絶縁材料だ。既存の樹脂基板は電気を通さない一方、熱伝導率が低く、放熱の問題を抱えていた。また、セラミック基板は性能が高い反面、高コストかつ脆弱だった。
そこでアドバンスコンポジットは、放熱性に優れ、コストパフォーマンスも高い“中間帯”の新素材を開発。これは、ゲーミングPCや家庭用ゲーム機、産業機器などに適しており、量産化も視野に入っている。
■ 実は“駆け込み寺”─企業が最後にたどり着く素材ベンチャー
同社の技術が重宝されるのは、「既存の設計や構造で解決できない問題」に直面した企業が、最後の打開策として“素材そのものを変える”必要に迫られた時だという。すなわち、アドバンスコンポジットはハードウェア開発の“最後の一手”として頼られる存在とも言える。
興味深いエピソードとして、とある入院中の社員がバリウム検査をきっかけに素材アイデアを着想し、退院後数週間で新素材を開発したという逸話も紹介された。まさに技術と創造力の融合である。
■ グローバル展開へ向けた布石と、“第二工場”の計画
アドバンスコンポジットは、ファブレスではなく、実際に自社でモノづくりを行うメーカーだ。そのため、既存の静岡県の工場に加え、国内2拠点目の工場設立や、海外展開を数年以内に実施する構想も進んでいる。
現在もすでに、海外の自動車・半導体・空調などの分野と取引実績があり、日本の“素材力”を海外市場に届けるフェーズに入ろうとしている。
■ 「素材こそが、日本の最強領域」
AKIYOSHI氏は、日本の素材技術が世界でトップレベルであることを強調する。
「日本は素材開発の分野で“ぶっちぎっている”んです。他国の人たちは、ここまで地味で手間のかかることをやりたがらない。」
一方で、日本の素材メーカーは自己PRが不得意であり、どれだけ優れた技術でも埋もれてしまうケースが多い。IVSでの登壇も、その“知名度の壁”を越えるための大胆な一手だった。
彼は語る。「これからは“見せ方”も含めて素材産業をアップデートしていく時代」。技術力とコミュニケーション戦略の両輪で、Advance Composite社(アドバンスコンポジット)は“縁の下の力持ち”から、表舞台へと一気に躍り出ようとしている。
■ 「素材の力で世界を変える」時代へ
アドバンスコンポジットの挑戦は、単なる素材の研究開発にとどまらない。自らイベントに飛び込み、異業種に自社技術を“見せにいく”姿勢は、スタートアップの新しいモデルケースとなるだろう。
“くっつけられないものをくっつける”
“作れない素材を生み出す”
そんなアドバンスコンポジットが描く未来は、ハードウェア開発の制限を外し、デバイスの性能進化そのものを加速させる可能性を秘めている。
次に彼らが世に送り出す“まだ発表されていない新素材”に、今から期待せずにはいられない。
「素材の力で世界を変える」
AKIYOSHIさん
Advance Composite株式会社
https://advance-composite.co.jp/
■河上 純二 a.k.a JJプロフィール
ビジネスプロデューサー/パーソナリティ/モデレータ
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