新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、医療分野、特に手術の実施に多くの課題をもたらしましたが、それと同時に、実際の医療現場におけるイノベーションと大きな変化も引き起こしました。WIREDも注目したその顕著な例は、ロボットシステムを使用して男性の命を救うために数千kmの距離を超えて協力した2人の医師(Archie Fernando氏とNadine Hachach-Haram氏)の物語です。
パンデミックによるロックダウン中の英国で2020年4月、泌尿器科医のArchie Fernando氏は、ガイズ・アンド・セント・トーマス病院の再建形成外科医で同僚のNadine Hachach-Haram氏に連絡を取りました。ほとんどの手術が延期されていたため、彼らは出来る限りの支援を行いたいと考えていました。
Proximie: 手術中の共同作業を可能にするARプラットフォーム
「Proximie」というヘルステックスタートアップのCEO兼創設者でもあるHachach-Haram氏は、外科医間の遠隔コラボレーションを可能にする拡張現実プラットフォームを作成しました。このテクノロジーにより、Webベースのソフトウェアを介したリアルタイムの通信と手術手順の共有が可能になりました。
Fernando医師は、ある困難な手術に直面していました。Mo Tajer氏という患者の精巣がんは腹部に転移しており、医師はロボットによる鍵穴手術を選択しましたが、医師にはその経験がありませんでした。彼女は先程のプラットフォーム「Proximie」を使うことで、Jim Porter氏(その手術法に熟練した米国を拠点とする外科医)と繋がり、Porter氏は拡張現実を使って彼女をリモートで指導したのです。
手術は2020年5月21日に行われました。Fernado医師は患者の近くでロボットを操作し、Porter医師はシアトルからアドバイスを与えました。彼らは5時間の共同作業によって、手術を無事に終えることが出来ました。これは、世界中で質の高い医療を提供出来るように医療体制を改善したいと考えていた外科医と、そんな彼女が立ち上げたProximieにとって驚くべき成果となりました。
リモートサポートとトレーニングにとって不可欠なツールに
Hachach-Haram医師は、外科医が国境を超えてリアルタイムで専門知識を学び、共同で作業を行い、共有することが出来るプラットフォーム「Proximie」を作成しました。パンデミック以前に、このベンチャーは既に30ヵ国で手術に使用されていましたが、コロナ禍でその導入が加速したため、同社のチームは技術の改良と拡張に精力的に取り組んできました。
定期的な手術が中止される中、Proximieは遠隔サポートとトレーニングに不可欠なツールとなり、”支援や訓練に協力したい経験豊富な外科医”と”トレーニングの機会に恵まれない研修医”の双方にとって利益をもたらしました。
このプラットフォームの機能は、ライブ手術の枠を超え、さらに拡張されました。Proximieのオンラインライブラリには記録された何千もの手術セッションが保存されており、外科医がトレーニングや報告会の目的で映像を確認、編集、タグ付け出来るようになりました。この膨大な手術動画のコレクションは、この種のデータベースとしては最大のものとなっています。
世界的に連携する医療の新時代
Proximieが外科診療に与えた影響は甚大です。その導入は増加しており、現在では英国のNHS(国民保健サービス)病院の20%以上がこのソフトウェアにアクセス出来るようになっています。世界中の外科医がこのプラットフォームを活用してスキルを向上させ、研修医は前例の無い教育リソースや実際の手術にアクセス出来るようになりました。
デジタル手術システムに関するNadine Hachach-Haram医師のビジョンは現実のものとなり、外科治療の業務に革命をもたらし、従来の外科訓練の限界を超えました。
Proximieを通じて、外科医は物理的な場所に関係無く、協力し、学習し、患者の転帰を改善することが出来ます。前述の男性の命を救った大胆なロボット手術は、外科の進歩と世界的な医療連携における新時代の始まりを実証しています。
この記事は、編集部が日本向けに翻訳・編集したものです。
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