🏝 Star Island Schoolhouse:教室が未来への入り口に
CEATEC 2025 会場内、IPA のブースには木目調の小さな教室セットが据えられていた。そこへ足を踏み入れると、穏やかな日常感の中で突然、壁が呼吸を始め、光景が変容する。VR ゴーグルを被ると、教室は海・空・宇宙・システム・自己といったテーマ空間への通過点となり、六分間の感覚的旅へと誘われる。IPA はこの展示を通じ、「どこでも学べる社会(Society 5.0)」のヴィジョンを、体験型の詩的表現として提示している。 
この体験は、単なる技術見本ではなく、「学び・暮らし・働く場の自由化」を主題とする哲学的命題でもある。展示において扱われるキーワードには、AI/エージェント、空間ID、翻訳、エネルギー、健康、廃棄、セキュリティ、才能、エンターテインメントなどが並び、訪問者はそれらを感覚的に味わい、問い直すよう設計されている。 
🔄 体験プロセス:教室 → 海岸 → 宇宙 → 帰還
体験開始時は、ごく普通の教室。机、地球儀、本棚など馴染みある風景がそこにある。ホームルーム形式で教師役の AI ハシモト愛氏が訪問者を迎え、学びの旅へと誘う。 
教室内には、浮遊するドット(点)が散在しており、それらに視線を向けたりタッチしたりすることで、次の空間への扉が開く。壁が溶け、床面が波打ち、海岸へと接近する感覚が生じる。そこから空・宇宙と視界は広がり、データフロー・インフラ可視化・都市構造の重層表現などが展開され、最終的に教室に戻る構成だ。帰還後には、訪問者自身を映像として合成した 3D 映像が QR コードを通じて提供され、体験者が語り手/被験者の立場を交錯させられる構造になっている。 
体験中のヴィジュアルは、ドローン・ロケット・データネットワーク・有機的な配線網などの象徴的モチーフで展開され、観客の意識を「場所」「自己」「学び」の流動性そのものに向ける演出が随所に散りばめられている。 
🌐 IPA のメッセージと戦略
IPA はこの展示を、未来社会構想の「体験的な表現」として捉えている。Star Island Schoolhouse は政策や技術をいきなり提示するのではなく、訪問者に「感じさせ、問いを立たせる場」としての役割を持つ。こうした“空間演出型”展示は、技術+物語+象徴性を融合しながら、公共理解を喚起する手法でもある。 
また、IPA の公式企画「LIFE 2050」構想の文脈とも連関し、この展示は「住みたい場所で生きる」「地域と世界をつなぐ」未来像を可視化する試みだ。展示のバックストーリーや関連テーマには、翻訳・エネルギー・健康・循環型社会・空間 ID など、未来社会のインフラ要素が多層的に扱われている。 
展示利用は、予約制で行われており、CEATEC の会期中(10月14~17日)に Makuhari Messe 内の IPA ブースで体験可能。体験には番号付きチケットが必要で、各日午前 10:00 から配布となる。 
✅ 総評:テクノロジー展示の枠を超えた“感性の問いかけ”
Star Island Schoolhouse は、最先端ガジェットや装置の単なる展示ではない。むしろ、「人間性・場所・学び」がテクノロジーとともに揺らぎながら再構成される可能世界を体験させるアート/シンボル的作品だ。来場者は「デバイスで未来を受け取る」だけではなく、「自分を未来の文脈の中に再定位する」体験を促される。
ガジェット好きや技術愛好者にとって、本展示は“体験型デザインとテクノロジー融合”の先鋒例であり、今後の展示設計・XRアート・公共コミュニケーションの参照点になる可能性を秘めている。未来における「学び・住まい・アイデンティティ」の流動性を味わう、意欲的な展示であった。