皆さんこんにちは。河上 純二 a.k.a JJです。
世界を変えるスタートアップ企業にフォーカスした最新レポートをお届けします。

第54回目は、先日開催されたB DASHCamp 2025 Sapporoピッチコンテンスト準優勝に輝いた、JOYCLE株式会社 代表取締役 CEO小柳 裕太郎さんにお話を伺いました。

今、ごみ問題の常識を覆すスタートアップが、静かに社会インフラのゲームチェンジに乗り出している。株式会社JOYCLEは、“その場でごみを処理し、資源に変える”という独自のビジョンを掲げ、小型の熱分解装置「JOYCLE BOX」を軸に、持続可能な地域循環型の廃棄物処理システムを構築しようとしている。

同社CEOの小柳裕太郎氏は、元双日・電通の新規事業開発出身。環境系ビジネスに可能性を感じ、スタートアップを渡り歩く中で、鹿児島県大崎町のユニークなごみ分別モデルに出会ったことが創業の契機となった。「全国にこのモデルをそのまま広げるのは難しいが、ごみをその場で処理する装置があれば、運搬や人手の課題を解決できる」と直感。そこから生まれたのが、モバイル型の分散インフラ「JOYCLE BOX」である。

■ ごみをその場で資源化——JOYCLE BOXとは?
JOYCLEが提供するのは、ごみを「燃やさず」「運ばず」「その場で資源化」できる小型の熱分解装置をレンタル形式で展開するサービスだ。装置は軽トラックで運搬可能なサイズで、病院や工場、自治体施設など、産廃処理コストが高騰している現場に導入が進んでいる。

現在はプロトタイプ段階ながら、2026年夏から秋にかけての量産を目指しており、プレシリーズAでの資金調達も進行中。北海道電力や中部電力ミライズ、鎌倉投信、寺田倉庫などが既に出資している。

JOYCLE BOXのコアとなるのは、熱分解によって廃棄物を無機資源へと変換するプロセスと、それに紐づくデータ可視化・制御技術だ。装置が生み出す白いパウダー状の無機資源は、エコタイルやアート、さらには鉄鋼メーカーの藻場の原料にも活用可能。名古屋のStation Aiでは、おむつ廃棄物からアップサイクルされたアート作品「ダーウィヌス」も展示されている。

■ 技術のこだわりは“使い勝手”。社会課題を起点にディープテックを統合
同社の技術的な特徴は、熱分解そのものよりも「いかにユーザーにとって使いやすいか」という点にフォーカスしている点だ。装置はごみの種類や量に応じて熱量を調節でき、電力生成や給湯、融雪にも転用を目指している。装置を通じて得られるデータをリアルタイムで可視化し、管理できる点が大きな強みとなっている。

このデータ駆動型の廃棄物処理は、たとえばカーボンクレジットやESG経営における新たな指標としての活用も視野に入れており、インフラを“価値を生む装置”へと昇華させるポテンシャルを秘めている。

■ 多様な人材と偶然の出会いが成長を後押し
現在JOYCLEには約20名のメンバーが在籍。自動車メーカー出身のエンジニア、素材系スタートアップのCCO経験者、上場企業でのIoT開発経験者、群馬大学で熱分解を研究していたモンゴル人研究者など、多彩なバックグラウンドを持つ人材が集結している。

製品開発初期には、既存の装置にIoTセンサーをつけるアプローチを試みたが、「装置そのものが市場にフィットしていなかった」と方向転換。独自装置の開発に舵を切るきっかけとなったのは、まさにセレンディピティ的なパートナー企業との出会いだったという。

■ 官民連携が進む:三井住友海上、石狩市、エランなどと提携
JOYCLEは、社会実装に向けたステップとして、官民連携にも積極的だ。三井住友海上火災保険とは、万一の装置トラブルや産廃コスト補償を見据えた包括提携を締結。また、病院向け入院セットレンタルを展開するエランとも協業し、医療廃棄物処理の新たなモデル構築に着手している。

自治体との連携も加速しており、石狩市の補助金を活用した実証では、ごみ収集車の動態データとJOYCLE BOXの配置による効率化を検証。その結果、ガソリン代や人件費などで年間数千万円のコスト削減効果が見込めることが明らかになった。今後は北九州市、東京都、沖縄県竹富町などとの実証も予定されている。

■ 防災インフラとしての新たな役割と、東南アジア展開の可能性
JOYCLEは今、防災インフラとしての展開にも注力している。東京都の補助金を活用し、KDDIからスターリンクを借り受けて、通信が途絶したエリアでもクラウド接続を維持する実証実験を実施中。太陽光パネル、通信、廃棄物処理を統合した“移動可能な災害対応インフラ”のプロトタイプがまもなく完成する予定だ。

さらに視野はグローバルにも広がっている。人口密度が高く、ごみ処理インフラが未整備なうえ、離島地域が多い東南アジア諸国は、JOYCLEの分散型モデルにとって格好の市場だ。小柳氏は「日本での実証結果を持って、現地パートナーとともに展開を加速させたい」と語っており、既にタイ・フィリピンのパートナーと海外展開に着手している。

■ 適材適所でインフラを“再編集”する
小柳氏が描く未来は、大型焼却炉と分散型インフラが共存する“ハイブリッド型のごみ処理社会”だ。都市部では既存の集中型施設が引き続き必要とされる一方で、人口減少や高齢化が進む地方や離島では、柔軟かつデータ駆動型のJOYCLE BOXのような分散インフラが不可欠になる。

「JOYCLE BOXがあるのが当たり前の風景にしたい」。その言葉の裏には、持続可能な社会への静かな革新と、それを支える“目に見えないインフラの再構築”への覚悟が垣間見える。


「JOYCLE BOXがあるのが当たり前の風景にしたい。」
株式会社JOYCLE
代表:小柳 裕太郎

https://joycle.net/



■河上 純二 a.k.a JJプロフィール

ビジネスプロデューサー/パーソナリティ/モデレータ
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