先週ハワイで開催されたSnapdragon Summitで、Qualcommは新しいSoCであるSnapdragon 865の詳細を発表しました。2020年のスマートフォン市場のハイエンド機で何が起こるかについての見通しが分かった発表となり、来年新しい端末の購入を検討している人たちにとって重要なポイントがいくつかありました。

次世代のカメラ機能

消費者の観点から見ると、Snapdragon 865の最も重要な要素は、理論上出せるカメラ性能の上限です。

Snapdragon 865のカメラ性能についてポイントを見ていくと、Qualcommの新しいSpectra ISP(画像信号プロセッサ)が非常に強力で、2億画素センサーから信号を読み取ったり、データをキャプチャしたりできます。また、同時に複数のカメラから、以前は不可能だった複数のカメラによる写真とビデオ(超広角、広角、ズーム、自撮り)の同時撮影を可能にします。

ほとんどの人は気付いていませんが、さまざまなISPユニットの速度が十分でないため、現在の4000万画素や1億画素のカメラは十分に活用されていません。また、多くのマルチフレーム撮影技術は、最大解像度の4分の1で駆動しないといけません。Snapdragon 865を使用することで、初めてその障壁を打ち破ることができます。

マルチフレーム写真は、コンピューテーショナルフォトグラフィー(コンピューティングによる画像品質の向上)の基礎的な要素であり、画像フレームの改善は画像品質に大きな影響を与えるはずです。

8Kビデオ録画がスマートフォンで初めて利用できるようになります。8Kなんて自分からは掛け離れた話に聞こえるかもしれませんが、4Kビデオがだんだんと「必要」から「非常に必要」まで需要が伸び、特に60FPSも撮れるようになったのはそれほど昔のことではありませんでした。

Qualcommはさらに進化し、最大4K/120FPSのビデオ撮影で、4倍のスローモーションまたは非常に滑らかなスローモーション撮影を可能にします。ほとんどのスマホが4K/60FPSはもちろんのこと、4Kでさえ記録しないと考えると、気が遠くほどの進化といえます。

「無制限」の960FPSスローモーション:960FPSはソニーによって初めて導入され、その後サムスンとファーウェイによって普及しました。ただし、それらにはすべて、0.4秒(もしくは非常に短い)の録画時間制限がありました。

この制限は、適切なカメラセンサーを備えたSnapdragon 865によって打ち砕かれます。現在、唯一の制限はストレージ容量またはRAMです。各メーカーがこれをどのように実装するかにこれから注目です。

約25%高いパフォーマンス

新世代のプロセッサは性能が向上しており、CPUとGPU(グラフィックスプロセッサ)の両方が現在のピーク速度を約25%上回る性能を発揮します。

2019年に登場したSnapdragon 855は、特にゲーミング用途などですでに最高のAndroidゲームプラットフォームであったことと、主要な競合チップが2020年10月以降に発売されることを考えると、Snapdragonの快進撃は来年も続きそうです。

以前にMediaTekやHiSiliconとの大きな競争を目にしたのは驚くべきことですが、Kirin 990はちょうど2019年10月に発売されました。

明らかに、一部の高級なゲームはCPUおよびGPUリソースを多く使用する傾向があるため、より高速なスマートフォンこそゲーマーに最も利益をもたらすといえるでしょう。2019年に明らかにゲーム用うたって開発されたほぼすべてのスマホは、Snapdragon 855またはSnapdragon 855+を搭載しています。

144Hzでゲーミング可能に

このようなコンピューティング速度により、ゲーム体験は明らかに優れたものになるでしょう。ただし、レンダリング速度だけがすべてではなく、Qualcommはゲーマーが求めている144Hz駆動のゲーミングを実現しています。

Snapdragon 865は、ベンチマークのような短期的なグラフィックス性能ではなく、持続的に動作させるような実際の使用シーンに重点を置いています。

持続的なパフォーマンスには主に、これまでのパフォーマンスレベルを維持しながら発熱を抑えられる、高い電力効率の新しいアーキテクチャによって実現されます。

動作速度が高速化すると、新しいレンダリング技術の利用も可能になります。開発者がゲームをアップグレードする時間がない場合、QualcommはGame Color Plusと呼ばれる機能をドライバーレベルで当てることでレンダリングを向上するといいます。これにより、何千もの既存のゲームを強化できます。

GPUドライバーは、今後のAndroid Rの機能のおかげで、アプリと同様にアップグレード可能になります。

最後に、5Gの接続性能は、ゲームマシンからのプライベート接続や、クラウドゲームサービスからの接続などでより優れたゲームストリーミングへの扉を開きます。

人工知能と大規模なデータコンピューティング

ニューラルネットワーク処理の説明は、Snapdragon Summitの大きな部分を占めていました。これは2つの理由で重要です。

まず、人工知能(AI)はそれほど必要な場面は多くないかもしれませんが、必要な場合には、できるだけ早く結果を出す必要があります。このため、可能な限り高いピークパフォーマンスが必要です。

たとえば、音声コマンドや顔認識には低遅延の処理が必要で、特にカメラに関しては最高速度での処理が必要不可欠です。これが、過去2年間でAIプロセッサのサイズと速度が非常に大きく成長した理由です。

AIプロセッサの高速化と2019年のニューラルネットワークの最適化(場合によっては90%のサイズ削減)により、デバイス上のAI推論が大幅に高速化され、待ち時間が短縮され、プライバシー保護も大幅に向上するといいます。

Snapdragon 865に搭載されるAIエンジンは、15TOPS(1秒あたり15兆回の操作)を実行できます。これは、ファンで冷却されない低電力チップを搭載したデバイスに搭載されているチップとしては信じられないほどの計算速度です。

第二に、AIエンジンは「AI」にしか適用できないということではありません。2Dまたは3Dグラフィックス画像処理、物理演算などにも使用できます。これはPCの用語では汎用コンピューティングと呼ばれ、2015年以降のディープラーニングAIの登場以来、GPUで始まったものは今では独自の進化を遂げています。

そして、これは前述のカメラについての段落に結びついています。非常に速いAIプロセッサは、AI関連または大規模(非AI)計算のみを必要とするコンピューテーショナルフォトグラフィーにも貢献する可能性があるためです。

QualcommのAIエンジンは、Spectra 480 ISP、Adreno 650 GPU、Hexagon 698 Processor(以前は「DSP」と呼ばれていた)、Kyro CPUクラスターなど、複数のサブユニットで構成されていることを理解しておきましょう。

他の多くのチップメーカーは通常、「Neural Processor」または「AI processor」と、Hexagon Processorに相当するユニットを呼びます。しかしこの後、QualcommのTOPSと競合するために、みんなで議論し、定義を再調整する必要があると思われます。

開発者が何をするかによって、各ユニットは異なる貢献をする可能性がありますが、すべてが潜在的に「AI」のワークロードで支援できます。

すべてのSnapdragon 865スマホは5G対応に

Snapdragon 865はモデムをまったく統合していないため、QualcommはQualcomm X55 4G/5Gモデムとのセットとして販売しており、事実上全世界で両方をサポートしています。

技術的にはSnapdragon 865で4G通信のみのスマホを開発することも可能ですが、Qualcommは5Gをサポートするスマホのみがこの新しいプラットフォームにアクセスできるようにしました。

2019年のハイエンドAndroidスマートフォンの大半はQualcommを搭載していたため、2020年のアップデートで5Gが完全にサポートされるようになる可能性があります。12月上旬のT-Mobileの発表は、少なくともsub6バンドで5Gをどれだけ早期に利用可能になるかを示しています。

5Gは予想よりも早く展開されており、4G LTEから5G Sub6に移行するだけで、実際の通信速度が40〜60%向上しました。また、カバーエリア内での受信感度もわずかに良好になりました。

3D Sonic Max 超音波式ディスプレイ内超指紋認証センサー

これはSnapdragon 865に限った話ではありませんが、Qualcommの新しい指紋認証技術は、ディスプレイ内での指紋ロック解除を大幅に改善するはずです。

超音波式のディスプレイ内指紋認証がスマホをより魅力的にしたことは明らかですが、静電容量式指紋認証センサーを使用するより遅くて信頼性が低いというデメリットもあります。

新しい超音波式指紋認証センサーは、画面のはるかに広い領域(17倍大きく、2本指の同時認証に対応)で動作し、人間工学的でより速く、より信頼性が高い(20倍信頼性が高い)といいます。

結論

Snapdragon 865は、Androidスマートフォンの主要なハードウェアプラットフォームになりつつありますが、その技術的基盤は、自動車、ドローン、VRヘッドセット、さらにはノートパソコンにも深く影響を与えるでしょう。

Snapdragon 865を搭載する最初のデバイスは2020年第1四半期に登場するはずです。SamsungS11にはSnapdragon 865が搭載されるものと確信しています。

免責事項:Qualcommは、Snapdragon Summit年次技術会議(12月3〜5日)にUbergizmoを含む国際的な多くのメディアを招待しています。同会議に関する意見や分析は私たち自身のものであり、Qualcommは事前に記事をチェックしたり、公開内容を管理したりしていません。

この記事は、編集部が日本向けに翻訳・編集したものです。

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