カメラマン憧れのブランド「ハッセルブラッド」。1941年にスウェーデンで設立されて以来、ハンドメイドのカメラを作り続けています。最高品質のクォリティと信頼性能で、人類初の月面着陸をはじめとした数々の歴史的シーンを捉えるなど、カメラ業界をリードし続ける存在です。

私がハッセルブラッドのカメラに初めて触れたのは、師・立木義浩の撮影現場でした。30年前、フィルムの時代です。正方形の画面、頭を下げて構えるウエストレベルファインダー、そこから見える左右倒立像の映像に憧れました。ただ。前日にチーフアシスタントから厳しく使い方を教えてもらっていたのに、現場ではフィルムを上手に詰めることすらできません。

「手元が見えなくてもフィルムをきちんと詰められるようにする。それを撮影が止まらないようスピーディに行う」という、“撮影の基本”ができるようになるまで、数ヶ月の自主トレが必要。独立して直ぐに、中古のハッセルを買ったのは言うまでもありません(笑)。

私にとっては、フィルム時代の思い出とともにある「ハッセルブラッド」ですが、デジタルの時代に合わせて、当然進化を続けています。2016年には、まったく新しい電子プラットフォームを搭載しつつ、これまでと変わらぬ優れたクラフトマンシップと画質を表現した「H6D-100c」(税別 300万円)を発売。さらに同年、75周年を記念して世界初のミラーレス中判デジタルカメラ「X1D」を発売しました。5,000万画素を誇るこの機種は、雑誌やウェブメディアなどで話題に。「知ってる知ってる」という読者の方も、多いのではないでしょうか。

ちなみに、本社はスウェーデンのヨーテボリにありますが、ニューヨーク、ロンドン、パリ、コペンハーゲン、ハンブルグなど、世界各国に拠点を持ち、ここ東京では原宿にストアがあります。そしてこの原宿店では、今年の1月から「スタジオレンタルサービス」を開始。というわけで今回は、こちらのスタジオを実際に借りて写真をとってみたので、作例と共にご紹介したいと思います。

初回無料! ただし条件アリ

いきなりお金の話でなんですが(笑)、このレンタルサービスはなんと初回無料なのです。お店の方に確認したところ、「初回に限って、SNSやブログなどで利用後2週間以内にご利用体験レビューなどを拡散いただける方に限って、3時間まで無料でご利用いただけます(カメラ操作のレクチャー付き)」とのことでした。

たかはし、もちろん二つ返事で承知です(笑)。

ちなみにこの条件は、「プロフェッショナル、アマチュアを問わず、撮影する方、被写体になりたい方も1回目は無料です」とのこと。2回目以降も1時間あたり2,000円(税別)と、リーズナブルな価格でレンタル可能です。

早速スタジオに。まずは30分程、機材の説明を受けました。なんといっても、ボディだけで400万円を超える機材ですからね……。使用説明と各種機材の特性を、丁寧にご説明いただきます。

スタジオはお店の一角にあり、4畳半ほどの広さ。あくまで“機材お試し用”といった空間で、スタジオと言うには狭いです。常設のストロボも、broncolor Siros 800 S WiFi/RFS 2 × 2灯、パラ × 1、ソフトボックス × 1と、限られています。ただし、自前ライトの持ち込みは可能だそうです。

スタジオ仕様と諸条件については、こんなところ。早速撮影を…ということになりますが、折角の1億画素です。こんな物凄いカメラで撮影できて、データまで頂けるのなら、作品撮りをしたくなるのがフォトグラファー。ならば一体、何を撮るべきか。試行錯誤してみました。

1億画素で撮るべきものは?

まず、限られた空間での撮影には不向きな被写体、画作りを、プランから排除していきます。例えば、人物の全身を撮るには無理がある(椅子に座るとか出来ない訳ではないけれど)。これに加えて、今の自分が撮りたいものはなんだろうかと思考を巡らせました。

最初に決めたのは、「身体の一部に絞ろう」ということ。ライトは2灯しかなく(この時点でストロボを持ち込めるのを知らなかった)、ちょっと癖のありそうなブロンカラーのパラとソフトボックスという構成です。ディフューザーが2重になっているソフトボックスのライトであれば常用しているため、光の硬さや光量、光の広がり方・まわり方は知っています。ならばと、今回は1灯で撮影出来るモノに絞りました。

また私自身、「ハッセルブラッド」のカメラを広告の撮影で何度か使用していたので、その時の経験を思い出していきます。1億万画素と言う圧倒的なデータ量、時として“良すぎる”と思えたほどのレンズ精度。ハッセルを始めとする北欧のカメラが得意な、“中間トーングラデーション”の豊かさ…。

身体の一部を「ハッセルブラッド」のカメラ特性を考えつつ撮影する。ここまで決めたら、後はテーマです。

そこで頭によぎったのが、「初回に限って、SNSやブログなどでご利用体験のレビューを」というレンタル諸条件(笑)。

SNSには、笑顔など自分を良く見せるための写真が並んでいます。フィルター機能で、アッと言う間にツルツルのお肌だって手に入る。本当の自分とは異なる姿が、世界中に拡散されていく…と思うと、ちょっと不気味にすら感じます。

一方、SNSを離れて社会全体を見たとき、そこには閉塞感が横たわり、ニュースを見ればいたたまれない事件や事故が起きているわけです。

正直、「笑ってる場合じゃないよな~」「自分のことばかり気にしている場合でもないよな~」と思います。

ならばと、思い切って「笑わないポートレイト」を撮ろうと考えました。覚悟を持って生きている人を撮りたいと思ったのです。SNSにあふれているポートレイトとは違うポートレイトを。

そう考えていくと、自然に「男の顔」を撮ろうという結論になりました。SNSにはあまり「男の顔」、上がってませんよね(笑)。

この機材でなければ撮れない作品

敢えて、レタッチで画像を弄らないことも決めました(明るさや色など画像の調整はしています)。後は、被写体になってくれるモデル探しですが…、今回はタイミングが合って無理を聞いてくれそうな(笑)、お二人にお願いさせていただきました。

書道家・アーティストの藤田雄大さんと、舞台監督の菅 隆司さんです。

凹凸がより強調される極端なトップライト、自称「たかはしライティング」を用いて、全てが見えてしまう1億画素カメラでの撮影。しかもそれがこうして私のコラムで公開されてしまう。この条件を快諾してくれる「覚悟」をもった男たちと言えます(笑)。

レンズは、標準の80mmだと顔に寄った時に歪みが生じるため、100mm F2.2をチョイス(税別533,000円)。35mm換算で65mm相当となります。

焦点距離ギリギリの寄りで撮影したため、ピントを合わせるのには四苦八苦。慣れていくにしたがい少しずつは早くなったけれど、やはり難しい。35mmの撮影に慣れていると、フォーカスが合うスピードを遅く感じるかも知れません。

120mmのマクロレンズも試しましたが、等倍まで寄れるもののF22まで絞っても顔の輪郭がボケるため、最終的には100mmに落ち着いた次第です。

出来るだけピントを深く、そしてシャープに映るよう、細心の注意を払ってシャッターを押します。ウェブ用の小さな画像でも、このシャープさを認識いただけるのではないしょうか。
※写真はタップ/クリックで拡大します。

舞台監督:菅 隆司さん
書道家・アーティスト:藤田雄大さん

余談ですが、6シリーズから取り入れられたUSB 3.0 Type-Cコネクターは高速転送で、ストレスを感じません。なんといっても、Raw1枚で125MB程度の容量ですから、転送速度は重要です。

タッチパネル式の高解像度背面スクリーンも快適で、使っていて楽しいと感じました。設定方法も説明を聞いただけですぐに理解出来、シンプルで使いやすいと思います。

ただ、1つだけうっかりして使えなかった機能が。

それは、1/2,000秒~60分の高速シンクロです。レンズシャッター式のHシステムレンズに対応していて、ストロボは全速同調するとのことで、アスリートの撮影にも使えそうです。
古い頭のままだった為、シャッタースピードを1/250sに設定してしまい、残念なことをしました。

撮るものを限定すれば、最高の機材で、素晴らしい作品を作れる。そんな可能性を感じた、「ハッセルブラッド」の「スタジオレンタルサービス」。機材はやはり大事だと改めて思ったテスト撮影でした。

[撮影データ]
1/250s, F19, by Hasselblad H6D-100c, 100 mm F2.2

[参考リンク]
ハッセルブラッド ストア 東京 スタジオレンタルサービス

たかはしじゅんいち
写真家・立木義浩氏に師事。1989年よりニューヨークと東京を拠点に、広告・音楽・ファッション・アートの分野で活動。STOMPのオフィシャルフォトグラファーを10年以上担当し、2009年にはNews Week の「世界で尊敬される日本人100人」に選ばれる。現在は、アスリート、職人、日本酒作り、伝統芸能、芸術家が大好物な被写体。地域町おこし、障害、高齢者福祉などにも興味を持ち、フォトグラファーとしての関わり方を模索している。